不動産投資は資産運用の一環というイメージが強いですが、実は不動産を用いて行う「経営」としての側面もあります。
しかし、不動産投資を行うほとんどの方は自分が「経営者」であるという感覚はなく、経営のこともよく知らないという方も多いでしょう。
今回は、安定経営を継続する上で重要なバランスシートの基本と、不動産投資におけるバランスシートの活用方法を、具体例を交えながら紹介します。
バランスシートの基本
バランスシートは経営者がどのように資金を集めて、どのように活用して経営を行なっているかを示す表です。
左側には資産・右側には負債と純資産が記載されます。必ず左右は同額になるように表を整理します。つまり、
資産=負債+純資産
という関係が成り立ちます。尚、左側を「借方」、右側を「貸方」と言います。
それぞれの部分についてもう少し詳しく紹介します。尚、簡単化のために、以下では不動産投資を行う上でどのようなものが当てはまるかに焦点を当てて説明していきます。
資産の部
資産の部には、経営者が資金をどのようなものに投入しているかが記載します。資産の部は「流動資産」「固定資産」に分けられます。
流動資産は現金もしくは1年以内に現金化される資産。不動産投資の場合は主に家賃収入をここに記載します。
固定資産は1年以内に現金化の予定のない資産で、不動産投資の場合は正に投資している建物+土地を記載します。
負債の部
負債は簡単にいうと「借金」を意味します。つまり金融機関などから借りてきた資金を指します。企業経営では負債もまた「流動負債」「固定負債」に分かれます。
しかし不動産投資の場合は、ここに入るのは不動産ローンが記載されることになります。
不動産ローンはほとんどの場合、返済期間が長期にわたるため、流動・固定は特に意識しなくても、不動産投資では特に問題はないでしょう。
純資産の部
最初に紹介した通り資産=負債+純資産の関係が成り立ちます。この式を変換すれば、純資産=資産ー負債ということになります。
純資産の比率が高いほど経営は安定しているといえます。
もし純資産がマイナスになってしまったら、企業の場合は倒産してしまいます。
不動産投資の場合は、新たに手持ちの資金を持ち出してローン返済などに充てることで不動産投資の継続は可能ですが、やはり投資が上手くいっている状況とはいえません。
純資産の部分を安定的に維持していくことが望ましいのは、不動産投資も会社経営も同様です。
バランスシートの不動産投資への応用方法
以上のような構造を持つバランスシートですが、続いては不動産投資への応用方法を実例を交えて紹介します。
不動産投資を開始したときのバランスシート
ここでは一例として、
- 4,000万円の鉄骨造りのアパート(土地1,500万円・建物2,500万円)
- 自己資金1,000万円、銀行からのローン3,000万円(20年ローン)で購入した
購入時点でのバランスシートは以下の通りとなります
借方 | 貸方 |
資産 4,000万円 建物 2,500万円 土地 1,500万円 | 負債 3,000万円 銀行ローン 3,000万円 純資産 1,000万円 |
先に説明した通り、左右とも同額の4,000万円になることがわかります。
20年後、ローンを返済した時点のバランスシート
続いて、上記の例に基づいて銀行ローンを20年後に完済した時点でのバランスシートを考えてみます。
銀行ローンはゼロになるので、右側・貸方の負債はゼロになります。
少し専門知識が必要になるのが左側・借方の計算です。元々2,500万円の価値があった建物は経年劣化していくため、価値が下がります。
実は、バランスシートにおける不動産の価値の「下げ方」は決まっています。毎年の価値の減額幅に当たるものが、節税対策などにも利用される「減価償却費」です。
減価償却の細かい説明はここでは割愛しますが、比較的シンプルな「定額法」で減価償却を行う場合は、一年あたりの減価償却額が「取得価格×償却率」で計算されます。
不動産の耐用年数と償却率は、以下のように定められています。
- 木造:耐用年数22年・償却率0.046
- 軽量鉄骨造:耐用年数19年〜34年・償却率0.053〜0.030
- 鉄骨造:耐用年数34年・償却率0.030
- RC・SRC造:耐用年数47年・償却率0.022
今回の事例ではアパートは鉄骨ですので、建物部分の取得価格2,500万円のアパートの20年後の償却額は
2,500×0.03×20=1,500万円
そして20年後のアパートの資産価値は
取得価格-償却額=2,500万円-1,500万円=1,000万円
となります。
尚、土地はバランスシートを計算する上で「時間が経っても価値が変わらないもの」とみなしますので、このような減価償却の処理は行いません。
さて、続いて忘れてはいけないのが「家賃収入」です。賃貸経営により毎月家賃が入ってくるはずですが、不動産経営をバランスシートで評価する場合には、この家賃は「積み上がった流動資産」として扱います。
ここでは例えばアパートの月々の家賃総額が15万円だったとします。(簡単化のため、ローンの利息返済、税金支払などは無視します)そうすると、20年間の総家賃収入は3,600万円となります。
ここまでの計算で、20年後のバランスシートは以下の通りまとめることが可能です。
借方 | 貸方 |
資産 6,200万円 家賃収入3,600万円建物 1,000万円 土地 1,600万円 | 負債 0万円 純資産 6,200万円 |
この事例では、元々1,000万円だった純資産が20年後に6,200万円になっています。差額5,200万円が、20年間で不動産投資によって発生した利益ということになります。
このようにバランスシート上で、純資産及びバランスシート全体が経過年数とともに拡大していくようであれば、不動産投資は順調であると見なすことができます。
逆に純資産が収縮していく、最悪マイナスになる、という場合は、健全な不動産投資ができていないということを意味します。投資計画の見直しを検討する必要があるでしょう。
定期的にバランスシートを作成し、経営状況をチェックしていくことで、自身の不動産投資が上手くいっているかどうかを正しく把握できます。
バランスシートを活用し、経営者の感覚で不動産投資を進めよう
不動産投資は「投資」でありながら、不動産という資産を活用して行う「経営」でもあります。
在庫などがない分資産構成は企業より単純であっても、やはり、企業経営と同様にバランスシートを活用しながら不動産経営を進めていくことが大切です。
手持ちの現金状況や表面的な収支状況だけで不動産投資を判断せず、不動産の資産価値・銀行負債をも加味して評価できる、バランスシートを用いて管理を行うことで、長期間にわたり安定した不動産経営が可能になります。