近年の法人税率引き下げや個人の所得税率の引き上げにより、アパート経営の法人化が注目されています。
アパート経営では、個人で運営するより法人化したほうが税金対策になる場合があるのです。
ただし、タイミングを間違うと失敗する恐れがあり、メリットとデメリットをしっかりと把握しておかなければなりません。
そこで今回は、アパート経営を法人化するタイミングやメリット・デメリットを解説します。
アパート経営で税金対策したい方や法人設立を検討している方は、参考にしてみてください。
アパート経営の法人化とは
アパート経営の法人化とは、個人で経営をおこなうのではなく会社を設立して運営する方法です。
近年、個人の所得税率より法人税が低くなっているうえ、法人設立のハードルも低くなっていることから、アパート経営の法人化が注目されています。
法人化にはいくつかの設立方法があり、代表的なパターンが下記の2つです。
- 不動産所有会社を設立する
- 不動産管理会社を設立する
以下で解説します。
不動産所有会社を設立する
アパートを会社の所有とし、賃料などの収入は100%会社に帰属するパターンです。
給与は会社から役報報酬としもらい、家族を社員や役員にして給与を支払うこともできます。
個人所有のアパートを会社に売却する、または会社名義でアパートを新築・購入して運営するのが一般的です。
ただし、アパートが個人所有の場合、会社に売却した際に譲渡税が発生するケースがあり要注意です。
売却価格が帳簿価額を上回って利益が出れば、個人に譲渡税がかかります。
とくに、減価償却を最大でおこなって帳簿価格が下がっているケースでは、注意しなければなりません。
対策として、価格が高くなる土地を個人で所有したままとし、建物だけを会社に売却する方法があります。
不動産管理会社を設立する
アパートは個人所有のままとし、管理業務部分を会社が請け負うパターンです。
一括借り上げするサブリース会社のイメージで、会社の売り上げはサブリース料が中心となります。
通常、管理委託費は5%前後で設定されるため、不動産所有会社と比較して収入が大幅に減ってしまい効果は限定的です。
アパート経営を法人化するメリットが大きく薄れてしまう恐れがあり、不動産投資においては一般的ではありません。
アパート経営を法人化すべきケース
アパート経営に限らず、法人化は不動産投資全般で有効な手段のひとつです。
ただし、すべての方に有効ではない場合もあり注意しなければなりません。
アパート経営を法人化する目安としては、個人の所得がおよそ1,000万円を超えるケースです。
個人の所得税は所得額によって税率が上がる累進課税を採用しており、以下となっています。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超え1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超え | 45% | 4,796,000円 |
法人税率はケースバイケースですが、資本金1億円以下の法人の場合はおよそ21~34%と30%前後です。
上記の表に照らしてみると、個人の所得額が900万円を超えた場合に法人税率のほうが下回るのがわかります。
すなわち、個人の所得税額が900~1,000万円を超えたときが、アパート経営を法人化するタイミングなのです。
アパート経営では、個人より法人のほうが多くの経費を計上できることもあり、実際には税率の差以上にメリットがあるといえます。
アパート経営法人化のメリットとデメリット
アパート経営の法人化には多くのメリットがある一方、デメリットもあります。
メリットとデメリットをしっかりと把握して、ベストなタイミングで法人化を検討しましょう。
アパート経営法人化4つのメリット
税金の負担を減らせる
前述したように、一定の所得額以上であれば個人より法人のほうが税金を減らせます。
高額所得になるほど節税効果も高く、税金の負担を軽減できるのがメリットです。
また、家族全員を役員や社員にして給与を支払えば、さらに利益を圧縮して法人税を減らせます。
多くの経費を計上できる
個人では家族への給与を経費にできないほか、法人と個人では経費を計上できる範囲が異なります。
たとえば、個人が生命保険に加入した場合、控除額は12万円が上限と決められていますが、法人では支払った全額を経費として算入可能です。
また、自宅を事業用として使っているケースでもメリットがあります。
法人・個人かかわらず、オフィスとして使用している分を家事按分で家賃として経費にできる点は同じです。
ただ、プライベートな居住スペースの家賃はいずれにせよ経費にできないものの、法人の社宅として居住スペースを一定割合で経費として計上できます。
そのほか、福利厚生費も法人のほうが経費として認められる範囲が広いなど、アパート経営の法人化は税金対策として有効な方法なのです。
経費については詳しくはこちらの記事をご覧ください。
繰越欠損金の繰越期間が長い
繰越欠損金とは、事業年度に発生した赤字を翌年以降に繰り越せる金額です。
たとえば、100万円の赤字を出した事業年度の翌期に20万円の黒字だった場合、80万円を損金として繰り越せます。
さらに翌々年以降も黒字だった場合、繰り越している損金がなくなるまで一定期間控除可能です。
法人が10年、個人事業主が3年と決められており、法人化すれば長期間にわたって損金を控除できます。
とくに、物件を購入した年は赤字になるケースもあるため、より長期間損金を繰り越せるのは大きなメリットです。
社会的信頼が高い
個人事業主と法人では、社会的信頼の高さが異なります。
対外的に法人のほうが安心して取引できるイメージがあり、事業を有利に展開できるケースがあるのです。
なかには、法人でなければ取引しないという会社もあります。
アパート経営を成功させて幅広く事業を展開しようと考えているならば、法人化しておくのがおすすめです。
アパート経営法人化 3つのデメリット
法人設立には手間とコストがかかる
法人を設立する際には、さまざまな手続きや書類作成が必要です。
たとえば、
- 登記申請書
- 定款
- 取締役の就任承諾書
- 払込証明書
- 印鑑届出書
書類作成では行政書士に依頼する必要がありますし、毎年の決算期には税理士に決算書の作成も依頼しなければなりません。
当然ながらコストもかかるため、手間とコストを許容できるかを見極めてから法人設立に踏み切るのがよいでしょう。
売却時の税率が高いケースがある
所有期間が5年を超えるアパートを売却する場合、法人のほうが個人と比較して税率が高くなります。
個人の不動産売却にかかる税金は所有期間によって異なり、短期譲渡所得と長期譲渡所得で税率が代わるのが特徴で、以下の通りです。
譲渡所得の種類 | 所有期間 | 所得税率 | 住民税率 |
短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 9% |
長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 5% |
一方で、法人には所有期間による税率の違いはなく、通常通り法人の実効税率で計算されます。
すなわち、法人税率を仮に30%前後とした場合、5年以下の売却なら個人の税率「30%+9%=39%」を下回るものの、5年以上の売却なら個人の税率「15%+5%=20%」のほうが低い税率を適用できるわけです。
売却時の税率の違いで法人化のメリットが大きく薄れるものではないものの、売却も視野に入れる場合は考慮しておきましょう。
規模が小さいとコスト倒れする恐れがある
「アパート経営を法人化すべきケース」でご説明したように、所得額が一定の金額を超えないと法人化のメリットを受けられません。
高い税金とコストばかりがかかってアパート経営が立ち行かなくなる恐れもあるため、規模の小さいアパートで法人化する際は注意が必要です。
アパートの規模や所得額のバランスをしっかりと把握してから、法人化を検討してみましょう。
まとめ
アパート経営を法人化する「法人成り」は、税金対策として有効です。
しかしながら、タイミングによっては必ずしもすべての方に当てはまるとは限らないため、所得金額やメリット・デメリットを考慮しながら適切に判断しましょう。
もし、アパート経営をはじめ不動産投資でお悩みのことがあれば、プロに相談するのもおすすめです。
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なにか不安や困ったことがあれば、ぜひ一度お気軽にチェックしてみてください。